タイトル
『学力があぶない』
発行所 岩波新書 著者 大野晋 上野健爾 定価(740円+税) 2001年1月発行
最近また学力低下の話題が盛んである。私自身、「いったいぜんたい学力ってなんなんだ」という疑問を持ち続けていたので、タイトルにひかれて読んでみた。
文科省のゆとり教育が提唱されてからのさまざまなひずみ、例えば、先生方はかえって忙しくなったとか、子ども達は塾に行く時間が増えただけなどが指摘されている。
「学力」の意味をめぐって興味深い指摘がなされている。それによると、「学力」は
外国語に翻訳できないのだと言う。その理由は、どうやら「学力」の意味あるいは解釈がふたとおりあるからだと言う。ひとつは、文科省や一部の教育関係者は学んだ成果としての「学力」は低下していないとする見方である。もうひとつは、大学関係者の見方でどうして学んでいいかわからないという意味での「学ぶ力」が低下しているというものである。この本の見所は、大野先生と川嶋先生二人の対談である。対談においての意見の相違が随所にあり、これが面白かった。この題材をテーマに教職を目ざしている大学生に討論させたら更に面白いと思った。
日頃、学生の就職相談に応じていて、気になることが多い。それは、正解や解答を相手に求める姿勢が強いように思うのである。それも、あたかも正解はひとつしかないといわんばかりの受け止め方を感じる。同時に、自分で考えていないなあと思うことに度々遭遇する。どんなときにそう思うかといえば、相談にきた本人が「分かっている」ことはなにで「分からないこと」がなにか質問しても返答がはっきりしないときである。だから、この一冊は、学生に読んで欲しいと思う。(2003年12月7日)
タイトル
『竹内まりやロングタイムフェイバリッツ』CD
発売ワーナーミュージックジャパン 定価2940円(税込み) 03/10/29発売
今日、竹内まりやのアルバムを買ってきた。以前ラジオで流れているのを聞いて、欲しかったもの。とても売れているらしい。
とにかく懐かしい曲が多く青春時代を思い出した。なにせ我々世代に刺激的な影響をもたらした60年代のポップスがふんだんに入っている。しかも、竹内まりやはもともと歌唱力のある歌手だったが、ますます円熟している感じがした。
「悲しき片思い」「なみだの16才」「ボーイ・ハント」「悲しきあしおと」「この世の果てまで」など14曲。私が特に懐かしかったのは、「夢見る想い」である。時はカンツォーネがサンレモ祭などの人気とあいまってブームであった。歌ったのは若い女性歌手のジリオラ・チンクエッテイだ。甘い声が色気づいた胸にずんずん響いて、まねて結構歌ったものだ。不思議にいまでもイタリア語の歌詞を覚えていた。
クリスマスソングもいいけれど、年末のお奨め盤。
(2003年11月27日)
タイトル
『りんごは赤じゃない』
発行所 新潮社 著者 山本美芽 定価(1300円+税)
副題に「正しいプライドの育て方」と書いてある。読んでみると、自分自身なり
の自信をもって、行動することの大切さ、つまり自分を大切にする生き方、
それが自立心を育むことを教えている。
この本のモデルとなった人は、2000年に相模原市立の中学校の美術の先生
であった太田恵美子さんである。私がこの本を知ったきかっけは、昨年、NHKのテレビで太田先生の授業風景を映しているのを見たことである。昨年から気になっていた本であったが、ようやく買って読んでみた。
章は全部で十二章あるがそのうち七章までの章立てを紹介しよう。
第一章 自分の責任を自覚させる
第二章 効果のあるほめ方をする
第三章 見て、感じて、考えさせる
第四章 「自由」を与え、力を引き出す
第五章 子どもを大切な人間として扱う
第六章 失われた十四年間 主婦から教師への転進
第七章 「自分だけの考え」を生み出す
「りんごは赤じゃない」は、赤だと思っていたりんごをよく観察すると、決して赤という1色でないことを言い表わしている。固定観念でものを見るな、ものの本質を見る目の大切さを教えているのである。
太田先生の教育の根っこは、生徒ひとり一人を一人の人間として向き合っていることだろう。だから、生徒がどんな些細な行動でも、「やる気」になってなにか行動したときに「いい」と誉めるのである。誉めるしかけをして誉めるのである。これは生徒に対する指導というよりは、「答えはあなたの中にある」という姿勢を基本にしているコーチングに近いものである。
教師を目指す学生に、現在教育に関連するお仕事をしている方に是非お奨めしたい本である。(2003年10月19日)
タイトル
『ジンメル・つながりの哲学』
日本放送出版協会 菅野 仁著 定価(970円+税)
自分と他者、自分と社会はどのようにつながることができるかという問題に対して、約100年前のドイツに生きたジンメルという社会学者の思想から探りたいと提言している。
自由と抑圧について、次のような記述があった。
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われわれは現実の生活のなかで、ある場合にとても自由を感じ、ある場合にはたとえそれが同じような状況でも、とても抑圧を感じたりすることがある。その違いは何か?
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私たちのコミュニケーションは「伝えたいことがそのまま伝わる」という伝達者の主体的能動性の発動という側面を越えて、伝えたいこと以上に「つい伝わってしまう」ことの方が思いのほか大きいということだ。
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この本を読みながら、思い出した本がある。それは、ヴィクトール・E・フランクルの『制約されざる人間』『それでも人生にイエスと言う』(いずれも春秋社発行)である。
どんな状況に置かれたとしても、そのときの状況を自分がどう受け止めるかで次の行動が決まる。全部自分次第だと思う。面白く生きるためには、世間の常識や思い込みで人を自分を制約して縛らないことが大切と思う。そうすれば、どんなに苦しく切なくても、それでもユーモアを発することができる。「ねばならない」とか「そうすべきである」とかあまり窮屈に考えないことが大切なのではないか。(2003年9月15日)
タイトル
『「ひきこもり」たい気持ち』
角川書店 梶原千遠著 定価(1700円+税)
著者は臨床心理士である。この本の「はじめに」の一部を紹介します。
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私は、彼らがポツポツと語る話に耳を傾ける。そして、あるときがくると、彼らの話は溢れるように流れ出す。それは、長い間、ずっと自分の中に閉じ込めてきた彼らのストーリーだ。私が関心をもって聞くのは、人々のなかにあるそうした心のストーリーである。そして、彼らがしんどくなったり、億劫になったりした気持ちに私は共感する。彼らの「ひきこもり」たくなる気持ちや「ひきこもって」しまう気持ちは、私の中にも存在する要素だと感じるのだ。
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この文面を読みながら、同感した。誰しも、「ひきこもり」という意識あるいは言葉を明確に持っているわけではないが、「なんとなく休みたい」とか気持ちはあるだろう。
かつて、私も前の職場に勤務していたとき、そのような気持ちが働いたのも一度や二度ではなかった。例えば、朝起きたとき「今日は会社に行きたくない」と思い、なにか罪悪感を少し感じつつ急に休んでしまうとか、休まないまでも会社に行くのが気が重いなどのことである。この原因は身体の不調ということもあるが、多くは人間関係のストレスからもたらされる。人は、いつも目いっぱい頑張るのではなく、時には「一息つく」ことも必要だ。これを逃げと捉えるのではなく心が身体が次の準備のために「休め」というメッセージを発信しているのだと思いたいものだ。
もしかしたら、「ひきこもり」の状態に入った人に対して、ことさらに「ひきこもり」という定義を意識しすぎた対応ではなく、「内にこもる」という状態は誰にでもあることを伝えることも意味あることかも知れないと思った。(2003年8月3日)
タイトル『こころの出家』
著者 立元幸治 発行ちくま新書 2000円+税
副題に「中高年の心の危機に」とある。ポケットに入る大きさの本なので通勤の友にお奨めだ。この辺であまり先を急がずにじっくり自分と対話するのに絶好の本である。
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自分たちがひたすら追い求めてきたものは何だったのか。そしてまた、自分たちが生きてきた生き方は、本当に自分が生きてきたと言える人生だったのであろうか。いまある自分と併行してもう一つの自分を生きることつまり「二つの時計」を持って生きることは不可能ではない。
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と、いまの空虚感から開放したいあまり、それを外部に求めたり、他人に求めるのではなく自身に問いなさいと提言している。
「二つの時計」はさまざまに解釈できる。例えば、自分の判断基準を見つめなおすとか、会社だけではなく地域の中にコミュニティを持つなど、もう一人の自分を意識して行動してみることも大切だ。要は自分を追い詰めるのではなく、自分を信じ、自分の中に眠っている潜在能力が目を覚ますことを信じ、いまのあるがままをまるごと受け止め、自分なりに生きていきたいものだ。「俺の人生、これも一局なり」と。(2003年6月1日)
タイトル『金持ち父さんの子供はみんな天才』
著者 ロバート・キヨサキ 発行筑摩書房 2002年11月7日
ご存知『金持ち父さん 貧乏父さん』の一連のシリーズものです。
本文だけで311ページというページ数の多い本ですが、前作同様一気に引き込まれて読んでしまいました。かつて大江健三郎さんが「いい本にはリズムがある」とお話していたことを思い出しました。また、例によって印象に残った文節をいくつかご紹介します。
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・子供に知識を「詰め込む」ことより、子供の才能を「引き出す」ことの方が大事。
・真の知性とは、単に何が正しくて何が間違っているかを知っていることではなく、何が適切かを知っていることを意味する。
・お金のために働くことと、お金を自分のために働かせることの「区別」がわかるようになった。
・子育てで大切なのは、子供たちに無理に学ばせるのではなく、子供たちが学びたいという気持ちになる方法を見つけてあげることだ。
・この世に生を受けたおまえたちの使命は、自分の才能を見つけ、それを与えること。その才能を人に与えれば、おまえたちの人生はすばらしい魔法で満ちあふれることであろう。
・ありのままの自分でいられる自由を手に入れたことが成功なんです。
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仕事柄、大学生と話す機会が多く、若さの熱情がほとばしっている学生に出会うと、こちらの方まで楽しくなります。ただ、ちょっと気になることがあります。それは、答えをすぐに欲しがるという点であります。それゆえ具体的な事例を話すと非常に受けがいいのですが、ちょっと、どっちともとれる話やや抽象的な話になると困った様子をします。
大学で学ぶことについて大切なことは、知識そのものよりも、想像する力、つまり考える力だと思いますが、みなさんはどう思われますか。(2003年2月6日)
タイトル『がんばらない』
著者 鎌田 實 発行集英社
この本を読みたくて、図書館にリクエストしたら約1ヶ月半くらいかかって手元に来た。そこには、「この本は大変読む人が多いので、読み終わったらなるべくはやく返却して欲しい」旨の短冊がはさんであった。
確かにベストセラーになった記憶があったので、人気のあることは知っていたが、貸し出し用の本に返却をはやめる短冊を見たのは初めてのことであった。
この本の中で、特に印象的な話があったので、紹介したい。
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それは、がん告知を受け入院していたある職人のおじいちゃんと奥さん、そして、看護にあたった看護婦のたまごの人との深い人間のふれあいの話である。
おじいちゃんは、治療の一環として胆汁の袋を身につけてぶらさげなくてはいけなかった。しかし、職人気質であるおじいちゃんは、無粋なあるいは器具としてのその道具を身につけるのをひどく嫌っていた。それを見た新米の看護婦が手づくりの紐をつけてあげた。表面的には、その看護婦に感謝の言葉を伝えなかったおじいちゃんが、奥さんの前では、気に入って、いつも手の届くところにおいて、眺めていた。その話をおじいちゃんが亡くなってから、奥さんから聞いた看護婦は泣いた。
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(2002年6月2日)
タイトル『カシコギ』
著者 趙昌仁 発行 サンマーク出版 定価 本体1600円+税
本屋の店頭に大量に陳列されていたのと、そのカシコギという奇妙なタイトルにひかれてまえがきを読みました。そこには、16歳の少女が父親とけんかして家を飛び出したものの、この本を読んで家に帰ったことが記されていました。このまえがきを読みながら、最近、自分の存在、父親としての自分、自分に正直に生きるとはどのようなことなのかなどを考えていたことを思い出し、購入しました。
あとがきによると、この本は韓国で2000年の春から2001年にかけて160万部売れたそうです。
印象に残ったところ
→・世の中を愛し、世の中から愛されるタウムになることを望む---パパより
・好きな人のためには、いやなことでも我慢しなければならないんだ
読後感
→・子供を育てるって、親が自分の人生に、つまり生死にどう立ち向かっていこうとしているのかを見せることなのかな。
・やや父親の目線が強調されているので、世の母親はどのような感想なのか興味がわく
・高校生くらいの人びとはどのような感想を持つのだろうか
(2002年4月7日)
タイトル:『「自分の木」の下で』
著者 大江健三郎 発行所 朝日新聞社 発行日2002年1月30日第12刷 定価 本体1200円+税
この本を読んだ動機についてお話します。
大江さんは以前より、「心」や「魂」について丹念に洞察をしてきたと思います。
そして、最近は若い子供たちへのメッセージを執筆や講演を通じて行っています。
そして、子供たちへのまなざしはいつも温かい感じがしています。
なぜ、大江さんが次の世代の人たちに、意を決したようにメッセージを発信しようとしているのかを知りたいと思ったからです。
この本を読んだ後、子供たちに向けて書かれている本ではあるが、私たち大人も読む価値があるなぁと思いました。それは、以前子供であった私たち大人が、次に大人になっていく人たちに何を引き継いでいくのかをはっきり意識して、行動をしていく責任があるのではないかと感じたからです。
最後に、本の中から気に入った文章がありましたので、紹介させていただきます。
--------きみは、大人になっても、いま、きみのなかにあるものを持ち続けることになるよ! 勉強したり、経験をつんだりして、それを伸ばしてゆくだけだ。いまのきみは、大人のきみに続いている。それは、きみの背後の過去の人たちと、大人になったきみの前方の、未来の人たちとをつなぐことである。---------
(2002年2月10日)
タイトル:『坂本 九 全ヒット集』CD
発売 東芝EMI株式会社 発売日 1994年 価格 税込み3000円 規格番号 TOCT-8560
お待たせしました?やっと九ちゃんのCDを手に入れました。
やはり、うまいですね〜いいですね〜。これは疲れた中高年の皆様に是非オススメします。中高年のための癒し系ですよ。リストラや職場の人間関係で悩んでいる方は、夜、静かに水割りでも飲みながら聴いてみてください。九ちゃんの生まれついての快活さ、やさしさを感じ、明日へのエネルギーになります。
私のお気に入りは、なんといっても「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」「明日があるさ」です。もっとも、今日を懸命に戦っていない人には"明日はない"ですが。
あまり、深刻に考えすぎないで、一日一日感謝して過ごしましょう。私は、夜寝るときは「あしたは何かいいことがありそう」と思って寝る癖をつけています。
収録されているその他の曲は、「悲しき60才」「涙くんさよなら」「幸せなら手をたたこう」など全25曲です。(2001年12月12日)
タイトル:『ルネッサンス』〜再生への挑戦〜
著者 カルロス・ゴーン 発行所 ダイヤモンド社 発行日 2001年10月25日 価格 税込み1840円
今日、西武デパートでカルロス・ゴーンのサイン会に行ってきた。
「今日は、私自身のルネッサンスの始まりの記念日としたい」と話すと「面白いですね。I
hope so」と言われました。握手したときの感触は暖かく、力強かった。事前に準備された会場は、椅子が用意されていたが、途中、関係者からの連絡で、立ってサインをやるとの情報が寄せられた。8番目に並んでいた私は、その情報を聞きながら、ゴーンさんのリーダーとしての誠実な一面を見たような気がして感激した。
本の中から、私が気に入ったゴーン語録というべきものを以下紹介しよう。
・・・・・信頼されることほど大きなチャレンジはなく、その期待に応えることほど大きな
満足はない。
・・・・・新しい仕事を請け負うときは先入観を持たず、常に白紙状態から始めること。
・・・・・必要以上に綿密な計画を立てたり、不慮の事態への恐怖心がすぎると、結果
的に抑え目な低いゴールしか設定できなくなる。これでは会社の持つ潜在能力
が限界まで発揮されないまま終わってしまう。
・・・・・アイデアは課題克服の五パーセントにすぎない。アイデアの良し悪しは、どのよ
うに実行するかによって決まると言っても過言ではない。
・・・・・社長の仕事は、会社の中に見落とされがちな部分やあいまいな部分を残さな
いことにある。可能な限りあらゆる場所に光を当て、トップが会社のあらゆる
分野を公平に扱っていることを示していかなければならない。
・・・・・危機的状況下では、互いに隠し立てすることなく相手に誠実に接しなければな
らない。見えないところに隠したりせず、問題を真正面から受け止めることが
大切だ。
日産のリバイバル・プランの初期目標を達成したリーダーに、奢りや傲慢さは微塵も感じられなかった。人をひきつける魅力、まわりの人をハッピーな空気に包んでしまう人だと感じた。(2001年11月11日)